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口蓋裂言語のこと

2018年01月09日

院長藤田です。

今回は現在の診療とあまり関係のないことを書きます。

開業すると自分がこれまで勤務医時代に培ってきた知識や技術の中には、発揮できないものもあります。

これは形成外科に限らず、特に外科系の医師はほぼ皆が感じることと思います。

自分の専門的知識を忘れないうちに発信しておこうと思い、書かせていただくことにしました。

いかんせん、現在の診療に全く関係なく、当院の経営にも全く寄与しませんので、まさに気まぐれブログでありますが、なにかのお役に立てるのではないかと・・・。

 

私は勤務医として働いていたころ、口蓋裂とくに口蓋裂言語障害の手術治療を専門にしてきました。

当時はブログなど、一般の方に向けて発信するゆとりも手段もなく、医師が集まる学会で発表するのみでした。

ネットをさがしてもあまり口蓋裂言語についての記載はないようなので、患者さんとそのご家族の助けになるように、ある程度気楽に書いてみたいと思います。あるいは、形成外科専門医を目指して勉強しているけれど、口蓋裂の言語治療はよくわからないという先生方の助けになれば幸いです。

 

口蓋裂の言語障害は、正しくは「構音障害」と呼びます。つまり口、口蓋の構造的、機能的障害のために、うまく音を作ることができない、ということです。

 

まず鼻と口の機能について、基礎知識をお伝えします。

口と鼻がつながっているのは感覚としてご存知と思います。鼻の穴を奥に進んでいくとノドに到達します。

イッテQで芸人さんが外国で鼻から管を入れて口から出すということに挑戦していましたし、胃カメラも鼻から入れるものが人気だったりします。

鼻と口は奥でつながっているのです。

ではなぜ食事中には鼻から食べ物が出ないのでしょうか。

それは、のどちんこが鼻と口の間を塞ぐ役割をしているからなのです。正確にはのどちんこの部分ではなく、その前の軟口蓋が重要な役割を果たしています。

牛乳飲んでいる途中で笑わされると鼻から牛乳が出ますね。それは笑うことによって、軟口蓋による鼻と口の閉鎖がうまくいかなくなって起こる現象です。

普段はこんな状態。鼻呼吸ができる。

食べる、のむ、吹く、吸う、話す とき に、無意識のうちに軟口蓋があがり、鼻と口の交通をふさいでくれます。専門用語で「鼻咽腔閉鎖(びいんくうへいさ)」とよびます。これには「口蓋帆挙筋(こうがいはんきょきん)」という筋肉が重要です。口蓋帆とは軟口蓋のことだと思っていただいて結構です。

軟口蓋が上がって、鼻と口が隔たれた状態。鼻から息は漏れない

次に口蓋裂の基礎知識をお伝えします。

口蓋裂の種類には、唇だけに裂がある口唇裂、唇と歯ぐきに裂がある唇顎裂、唇からノドちんこまで裂がある唇顎口蓋裂、ノドちんことその前の部分だけ、つまり口の中だけ裂がある口蓋裂があります。

このうち構音障害をおこすのは唇顎口蓋裂と口蓋裂です。

この病気ではもともと口蓋が左右に割れているため、鼻と口を閉鎖する機能がない状態でお生まれになっています。

たべる、飲む は 何とか大丈夫なのですが、

吹く、吸う、話すは手術治療を行わなければ多くの場合かなりの障害があります。

 

口蓋裂の手術では左右に割れた口蓋を一つにするように縫合する手術を行います。

先ほど出てきた口蓋帆挙筋を一つに合わせて、軟口蓋がしっかり挙上するような手術を行うことが重要です。

多くの場合、1歳代におこなう1回の手術で(施設によっては2回の手術で)しっかりと鼻と口を閉じる機能が得られるので、吹く、吸う、話す ことができるようになります。

 

ただしもともとの裂の状態や、手術の経過などで、どうしても鼻と口をしっかりと閉鎖できない場合があり、その場合には構音障害を生じます。

注意しなければならないのは、手術がうまくいっていて、鼻咽腔閉鎖がしっかりとできる状態にもかかわらず、構音障害を生じる場合もあるということです。

これは歯並びの状態、口蓋の形の問題などが原因となるといわれていますが、いろいろな場合があり、一概に言えません。

 

次に言葉の異常について簡単に説明します。

まず共鳴の異常について。

開鼻声があるかどうか、が重要です。これはわかりやすく言うと、母音(あいうえお)を言ったときに鼻に抜けるかどうかです。ふつうは抜けません。ときどき正常でも軽く抜ける人もいます。鼻咽腔閉鎖不全があるとかなり抜けます。

開鼻声をチェックしたら次は異常構音があるかどうかチェックします。

口蓋裂で代表的な異常構音は「声門破裂音」「口蓋化構音」です。

「声門破裂音」というのは、子音を構音するときに口の中の圧を高めることができないので、マ行ナ行を除くほぼすべての子音が母音を短く切ったような音になってしまう異常です。

たとえば「さかな」と言おうとすると「アッアッナ」、「さいふ」「アイウッ」「えんぴつ」「エンイウッ」といった感じです。ひどい場合には言葉の明瞭度がかなり落ちるため、コミュニケーションに支障をきたします。

これは鼻咽腔閉鎖不全があると生じやすい異常なのですが、鼻咽腔閉鎖が良くても生じることがあり、注意が必要です。治療は鼻咽腔閉鎖不全がある場合には、手術をします。術後は改善することが多いです。

「口蓋化構音」は「かきくけこ」の音が「タチツテト」のような音になってしまう異常です。

たとえば「たいこ」「カイコ」「とけい」「コケイ」「てれび」「ケレビ」のような感じです。こちらは鼻咽腔閉鎖機能とはあまり関係がないとされています。そのため治療は手術ではなく、訓練しかありません。かえって治しにくい異常構音ではあります。

ほかに代表的なものに「側音化構音」というのがあります。これは口蓋裂とは関係なく生じる場合も多くあります。イキシチニヒミイリイの音を発音するときには、ふつうは下のまん中を下げてそこから呼気を出して発音しますが、この異常がある場合は舌のまん中が上がり、呼気を両わきの口角付近から出すように発音します。

例えば「ちちおや」というと「ききおや」のように聞こえます。診断では「ちきちきちきちき」と言ってみてください、というと、うまく発音できません。この異常構音は口蓋裂のない一般の方でも多くみられるので、あまり大きな問題にはならず、コミュニケーションに問題にはなりません。でもご本人は悩んでいることも多いです。治療は訓練のみですが、なかなか治りにくい異常です。

 

さて、ここから治療法です。

口蓋裂構音障害の治療ではまず、鼻咽腔閉鎖がいいのか悪いのかをしっかり診断する必要があります。

鼻咽腔閉鎖機能がよい場合には言葉のリハビリ治療を行います。お子様のリハビリなので遊び要素を交えながら、言語聴覚士の先生と言葉の練習をします。

本格的な訓練に乗れるのは年中さんから年長さんあたりからです。

あまり早期にがっちりとリハビリすると大事な時期にイヤイヤになってしまうこともあるので、注意が必要です。

鼻咽腔閉鎖機能が悪い場合には、根本的にはもう一度手術を行わないといけません。

ただし、その決定はじっくりと行ったほうが良いようです。

明らかに口蓋裂が再発している場合や、大きな穴が軟口蓋に開いてしまっている場合は早期に再手術をするほうがいい場合もあります。

しかし、多くの場合、しっかりと軟口蓋ができているのであれば、初回手術の傷が柔らかくなるまで数年待ったほうがいいと思います。最初のうちは閉鎖が悪くても徐々に改善してくることが多いです。

口蓋裂の術後に言葉の発音がおかしくても、あわてず騒がずしばらくじっと待つ、ぐらいの気持ちが必要です。

いざ手術が必要、ということになったら、どのくらいの年齢で行うのがいいのでしょうか。

私の経験上は4歳以上かつ、就学の半年前ぐらいまでに手術を行うのがいいのではないかと思います。

おそらく国内の施設では、同様に就学前に手術を行った方がいいという意見が多いかと思います。

言葉の獲得の面からは小児期には手術を終了したほうがよいですが、軽度の鼻漏れ程度で構音障害を起こすほどでなければ、成長を待ってからという場合も十分にあり得ますので、主治医の先生とご相談していただくのが良いでしょう。

さて口蓋裂の異常構音はいったいどこでみてもらえばいいのでしょうか。

おかかりの主治医の先生がおられれば、その先生にお聞きになるのが一番です。

もし治療がすでに終了している場合にはどうでしょう?おそらくお近くの大学病院形成外科あるいは口腔外科で口蓋裂治療を行っている実績のある施設に受診するのが良いでしょう。開業医ではなかなか治療してくれるところはないのが現状ではないでしょうか。口蓋裂学会では歯科で開業されている先生が大変熱心に発表されている場合もありますが、少数派です。

当院でも簡単な診察しかできませんし、治療はもちろんできません。

しかし、ある程度は治療の必要性や見込みを判断することはできると思います。

もしお悩みの場合は受診して頂ければご相談にのりたいと思います。

 

手術が必要、あるいは訓練が必要という場合には長野県立こども病院 形成外科 をご紹介させていただきます。

大人の方は信州大学病院形成外科を紹介させていただきます。

県外の方(来られるかどうかわかりませんが)であれば、全国の口蓋裂専門施設をご紹介させていただくことになると思います。

長い記事、お読みいただきありがとうございました。

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